一部が猿で一部が人間。サルとヒトを融合したキメラ胚を生み出し、19日間成長させることに成功



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 臓器移植などの医療に役立てるため、人間と動物のキメラを作成する試みが行われている。たとえば過去にはブタヒツジに人間の幹細胞を混ぜたキメラ胚が作られた。

 だが、そうしたキメラ胚はあまり長く生きられない。アメリカ、ソーク研究所のファンカルロス・イスピスア・ベルモンテ教授によれば、そうした動物が進化的に人間とそれほど近くはないからだという。

 だが、自然界を見渡せばもっと人間に近い存在がいる。霊長類だ。

 『Cell』(4月15日付)に掲載された研究によれば、今回サルの胚に人間の幹細胞を注入し、それを19日間成長させることに成功したそうだ。

【ペトリ皿でサルの着床前の胚にヒト幹細胞を注入】

 サル・ヒト胚を作成するための最初の手順は、カニクイザル(オナガザル科マカク属)のメスから「卵母細胞」(卵子に変化する細胞)を採取することだ。それを培養して成熟させたら、そこにオスの精子を注入する。

 受精から6日後、分裂した細胞は、着床前の胚「胚盤胞」となり中が空洞の球のような形になる。胚盤胞は自然な妊娠であれば、子宮に着床して完全な胚へと成長するものだ。

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サル・ヒトの胚盤胞

 だがこの実験では胚盤胞をペトリ皿に移し、レーザーで「透明帯」というコーティングを取り除く。これはペトリ皿に着床させるための処理だ。さらに胚をひたす溶液にも手をくわえるなど、いくつか処置をほどこす。

 そして、25個のヒト幹細胞を注入。こうして出来上がるのが「EPS細胞(拡張多能性幹細胞)」だ。これは胚組織にも胚体外組織(胎盤やへその緒など、胚の発達を助ける組織)にも分化することができる。

サル・ヒトのキメラ胚を19日生存させることに成功

 移植から1日後、ペトリ皿で着床したのは132個の胚のうち111個だったという。そのうち103個は受精から10日生存。しかし15~19日間生存できたのは3つだけだった。

 また9日目の時点で、ヒト細胞が維持されていたのは生存した細胞のうちの半分。13日目では3分の1だったという。

 だが、それらのヒト細胞は、「内部細胞塊」(胚盤胞の中で、胚などに成長する部分)と融合していた。生き残ったヒト細胞の数は、これまでの研究を大きく上回っているそうだ。

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photo by Pixabay

細胞の異種間コミュニケーションを担う遺伝子

 この研究では、生存したヒト細胞の数だけでなく、スイッチが入った遺伝子や作り出されたタンパク質も確認されている。

 その結果、通常の受精プロセスによる胚とは違う遺伝子が発現し、異なるタンパク質が作られていることが明らかになったという。

 研究グループの仮説によると、そうした遺伝子とタンパク質の中には、サルの細胞とヒトの細胞とのコミュニケーションに関係しているものがあり、人間と動物のキメラ胚を長期間生存させるための鍵を握っている可能性がある。

 そのコミュニケーション経路を解明できれば、ブタなどを使ったヒトキメラ胚でも生存率を高められるかもしれないとのことだ。

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photo by iStock

それは禁断の研究か?

 こうしたヒトと動物を混ぜ合わせたキメラ胚の研究は、禁断の領域に踏み込んでしまったかのような印象を与える。

 確かに正しく利用することができれば、新しい治療を研究するモデルとして利用できたり、あるいは動物の体内で人間の移植用臓器を育てたりと、医療の発達に貢献することができる。

 しかし、もしヒト幹細胞が注入されたために、人間並の認知能力を宿したブタやサルが誕生してしまったら? それが社会に与える衝撃は大きなものになるだろう。


References:Researchers generate human-monkey chimeric embryos | EurekAlert! Science News/ written by hiroching / edited by parumo

 
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(出典 news.nicovideo.jp)