2040年には独身が人口の半分になる……。独身研究の第一人者である荒川和久氏は「日本は今後、着実に『一人で生きる』ことが当たり前になる社会への道を進み、20年後には男性300万人は結婚相手が見つからず、結婚できる男性とできない男性の格差が拡大する」という。脳科学者・中野信子氏との対談で来るべきソロ(独身)社会の実像に迫った——。

※本稿は、荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァートゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

■2040年に「独身者が47%」になることをご存じか

【荒川】最初に基本的な事実の確認をしましょう。図表1の棒グラフの一番左側が独身の人口です。真ん中が64歳までの有配偶(既婚)人口、一番右が65歳以上の有配偶のパーセンテージです。2040年には独身が47%になり、64歳までの有配偶は31%になるんですよ。

【中野】64歳までの有配偶者が31%……すごいですね。結婚しているほうがマイノリティ(少数派)になりそうですね。

【荒川】基本的には独身が47%だから、ほぼ半分ということです。これは全員が未婚というわけではないですよ。死別とか離別とか、1回結婚してもまた独身に戻る人も含めて、20年後にはこういう配偶関係人口になることが予想されます。

【中野】もう若い層は結婚しないほうが当たり前の世界がすぐそこに来ているんですね。

【荒川】結婚したとしても晩婚になりますし、離婚も増えているので、必然的に独身が増えます。

【中野】最近は、結婚するにしても「永遠の愛を誓う」というような風潮ではなくなってきたように思います。結婚するメリットを疑ってかかる時代に、本格的に突入したという感じでしょうか。

■東京在住の働く女性が「結婚する意味ない」と思うワケ

【荒川】特に、東京在住の働く女性は、もう結婚する必要性を感じなくなっていますよね。

【中野】私の周りは少なくともそのタイプが多いですね。「結婚する・しない」というテーマとは少し違いますが、子どもを産むということにも消極的な風潮を感じます。結婚を何のためにするのかをみんなが自問自答している状態です。恋愛はしたいけれど、結婚するとなるとまた別の話だね、という意識です。

恋愛はいいけれど結婚はためらうという感覚は、昔は男性のものだったと思うんですが、最近は女性側がそう思っているのが新しい現象のように思います。地域によってばらつきがあるかもしれないですが。統計を取ったわけではないので、荒川さんにあらためて確認したいんですが、女性が「結婚したい! 婚活!」と言っていたのは、10〜15年前ぐらいだと私は認識しています。

最近は、意外と一人でも楽しいよね、という人が増えてきたという印象です。一人で楽しめる娯楽もたくさんありますし、そもそもほかの人がそばにいること自体がストレスだという人がそこそこの割合で存在しているという感触があります。

■日本は高齢者よりも独身者が多い「独身国家」になる

【荒川】若い世代でもソロ(独身)が増えていくでしょうね。図表2は20年後の内訳を表した円グラフです。円グラフの右側が独身者ですね。2040年には15歳以上の人口が約1億人で、独身が4600万人。有配偶が5200万人ということです。日本は超高齢国家とかいわれていますが、高齢者人口は3900万人ですね。3900万人の高齢者よりも独身の4600万人のほうが多いわけですよ。

だから、実は「日本は高齢国家ではなくて独身国家です」と言えるんじゃないかと思います。そういうことを、この間、経済産業省の方とお話ししたら、「なるほど」と言っていました。お役所は年齢で考えるから、あまり配偶関係で区分けをしないんです。では、グラフで高齢ソロ男と高齢ソロ女の数字を見てみましょう。高齢ソロ男は490万人、高齢ソロ女は1260万人ですね。

【中野】有名な話ですよね。独身の高齢男性の寿命が短いのは、おそらく配偶者と死別したからでしょう。死別したのちの男女の平均余命が違うからですね?

■「生涯未婚率」が「50歳時未婚率」に変わった不都合な真実

【荒川】妻と離別や死別をすると、男性は余命が短くなります。逆に、女性は強いということですよね。当然ながら、未婚者も増えます。最近では、「生涯未婚率」という言葉は「50歳時未婚率」に変わりました。たぶん、「生涯未婚と言うんじゃない!」というクレームが入ったんだと思うんですよね。「50歳を超えても結婚できる人もいるだろう。可能性はある。だから生涯未婚なんて言うな!」みたいなクレームが。

【中野】どこから入ったんですか?(笑)

【荒川】わかりませんが、一般人から官庁にクレームが入って、厚生労働省が使うのをやめたと勝手に推測しています。僕に言わせると、50歳を超えて結婚できる割合は1%もないですから、生涯未婚と言ってもいいと思いますけどね。図表3のとおり、2015年の男性の未婚率は23%、女性が14%。2040年には、男性3割、女性2割です。男性の3人に1人、女性の5人に1人は生涯未婚となります。

■300万人の日本人男性は、結婚相手が見つからない

【中野】これは、結婚における男性の格差社会が訪れているということですね。男性は何回も結婚する人と、結婚しない人に分かれる。女性はそうでもないという事実。

【荒川】そうです。男性は再婚相手に初婚の女性を選び、再婚女性は再婚の男性を選ぶ。なので僕は、これはもはや「時間差一夫多妻制」だと言っています。離婚・再婚を繰り返す人は何回も結婚するのに、1回も結婚できない人はずっとできない。

【中野】この傾向は確か、北欧でもっと顕著だと聞きました。男性は裕福な人が何回も結婚する。一方で、一夫ゼロ妻男性が多い。つまり、男性社会の格差が拡大し、男性どうしの間に戦いが訪れているというわけですね。

【荒川】実際、今もそうなっていますよね。300万人の男性は、どうあがいても結婚相手がいないという状況がある。図表4のとおり、未婚男性と未婚女性の各年齢別の人口差があります。この差分を見ると、各年齢で男がはるかに多い。ずっと「男余り」です。それが逆転して「女余り」になるのは75歳ですが、これは、おじいちゃんになると急にモテるわけではなく、悲しいかな、男が先に死ぬからです。生きているうちはほとんど「男余り」ということですよ。

累計すると、340万人の男は余っていく。20代~30代でもすでに145万人余っているというのが「男余り現象」。ちなみに、中国は3000万人以上の男が余っていますよ。

【中野】それはすごい。男性だけで一つの国ができちゃう規模ですね。東京都の人口も上回っている。いろいろな事情で結婚をしない人がそれだけ多くいるわけですね。

【荒川】やはり中国が一番多いのかなと思って調べたら、インドはさらに上でした。余っている男が5000万人です。アメリカも900万人くらい男余りですね。全世界合わせると、2億人くらいの未婚男性が余るといわれています。余った男だけで国をつくれますね。

■関ヶ原を境に、東日本は男余り

【中野】男性の格差社会ということを考えると、やはり女性側に「ある程度以上の層を選びたい」という欲が出るわけですよね? どのあたりが結婚できる層なのかを判断する場合、ちょっと嫌なことを言いますが、おそらく社会経済的地位で線引きすることができるでしょう。その線よりも上の層の男性人口と女性人口との引き算をすると、その分だけ女性が余りますよ、と。これがざっくり計算した場合の女性の未婚数という形になっているのかもしれませんね。

【荒川】そうですね。未婚者の年齢だけではなく、エリア別に見ても特徴が出てきます。

次の図表5は、都道府県別に男余り状況を色づけして日本地図にマッピングしたものです。男性が多く余っているエリアは薄い色、女性が余っているエリアは濃い色。関ヶ原あたりを境に東日本が男余りになっているんですね。一番男が余っているのが茨城県です。次に栃木県で、3位が福島県。福島は東北ですけど、なぜか北関東で男が余っている。

このマップ20代、30代で抽出したものです。日本全国が男余り現象であることは間違いないんですが、20代、30代で抽出すると、なぜか東日本と西日本にきれいに分かれる。

でも、東日本の中で東京だけは濃い色、つまり女性の数が多いんですよね。東京にいると、それほど「男余り」ではないんです。ちなみに、次の図表6は各都道府県2009年2019年の時点で人口増減を比較しています。いま、「東京人口一極集中」といわれていますね。図表で見ると明らかなんですが、日本の人口は減り続けているのに、1都3県は人口が爆増しています。あと、愛知と福岡、沖縄も増えています。

【中野】都市圏だけですね。関西圏はそうでもないんですね。

【荒川】関西圏は減っているんですよ。

【中野】大阪は、女性だけ増えて男性は減っているんですね。

【荒川】はい、グラフでは見づらいかもしれませんが、大阪は男性が700人減っていますが、女性は3万人も増えている。もう、仕事があるところにしか人が集まらないっていうことですよ。

【中野】確か江戸時代は、江戸には男性が女性の倍くらいいたんですよね。

【荒川】江戸はそうでした。現代の東京は逆で、働きに来る女性が多いということでしょう。東京に出てきてそこそこ収入を得るようになったら、このまま一人でも生きていける、あるいは仕事が楽しいから結婚や子どもはもういいかとなるのかもしれません。

ちなみに、大阪や福岡も女性が多いのですが、結局、仕事があるところに女性が集中します。飲食、販売業、サービス業といった仕事です。そして、工場地帯には男性が集中する。住むエリアで変わるんですよね。だからといって、女性が茨城県に行ってもモテモテになるわけでもないし、福岡に男性が行ったからってモテモテになるわけではありませんが。

【中野】顕著ですね。東京・神奈川・千葉・埼玉以外は、人口は増えていても微増。結局ほとんどが減っていき、増えているところだけにより集中していくんですね。「コンパクトシティー」といわれていますが、ほうっておいてもコンパクトになっていく。これは傾斜配分すべきだというのもわかります

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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会―「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち―増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』(ディスカヴァー携書)など。韓国、台湾などでも翻訳本が出版されている。

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中野 信子(なかの・のぶこ)
脳科学者、医学博士、認知科学者
1975年東京都生まれ。東京大学工学部卒業後、同大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了、脳神経医学博士号取得。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。東日本国際大学教授として教鞭を執るほか、脳科学心理学の知見を生かし、マスメディアにおいても社会現象や事件に対する解説やコメント活動を行っている。著書には『サイコパス』『不倫』(以上、文春新書)、『空気を読む脳』(講談社+α新書)、『ペルソナ』(講談社現代新書)、『引き寄せる脳 遠ざける脳』(プレジデント社)、共著書に『脳から見るミュージアム』(講談社現代新書)、『「超」勉強力』(プレジデント社)などがある。

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荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる社会』より


(出典 news.nicovideo.jp)



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