一時期は毎週のように放送されていた心霊番組。その多くに出演していたタレントといえば、怪談家の稲川淳二さん(73)だ。「テレビの心霊番組離れ」が進む一方、YouTubeでは心霊をメインに活動する配信者が増えている。2020年YouTubeチャンネル稲川淳二メモリアル『遺言』」を立ち上げ、2021年1月22日にはニコニコ動画のチャンネルも開設するなど、インターネットでの活動も行っている怪談界のレジェンドは、この状況をどう感じているのか。

 心霊番組が減りつつある理由と、今増えつつある“心霊系YouTuber”など若手の作り手に対する想いを聞いた。

◆心霊コンテンツは常に求め続けられている

 稲川さんは19年前に芸能界から一線を退いて、ライブ活動を中心に行っている。その期間、徐々にテレビの心霊番組は減少しているが、怪談などの心霊コンテンツそのものの需要や興味が減っているとは感じていない。

「ありがたいことに私の怪談ツアーに来ていただく方も増えていますからねぇ、会場も最初とは比べ物にならないくらい多い。お客さんも老若男女問わないですし、最近では外国人の方もよく足を運んでくださるんですよ。いつの時代も心霊現象や怪談を『楽しむ人』はたくさんいらっしゃいます」

 なぜ、当時と変わらない需要があるにも関わらず、心霊番組は減ったのだろうか。稲川さんは、その理由としてテレビを取り巻く環境が厳しくなったことと、優れた心霊コンテンツの作り手が少なくなったことを指摘する。

「当時の心霊番組は、プロデューサーも演者も色々と無茶をしていましたからねぇ。私もずいぶん怒られました(笑)。でも今はトラブルは避けないといけないご時世ですから、無茶しなければつくれない『面白さ』を今の制作環境で追及するのは、なかなか難しい。また、心霊に関わる本が減っていることも、大きな理由の1つだと思います。小説、ルポ本、構成作家などの優秀な『作り手』が減っているんです。だから、同じような内容のコピー商品のような番組が増えていると感じています」

 心霊コンテンツを発信する媒体が増えた今、「今まで見たことがない映像や刺激的な話」を求める視聴者ほど、テレビから離れやすい傾向があるのではないかと稲川さんは予想する。

 その時流のなかで、テレビに代わって強力な発信媒体になりつつあるのがYouTubeだ。

◆「好きなモノ」を選択できる時代に心霊・怪談はピッタリ

 イチ企画としてはもちろん、心霊・オカルトメインに活動しているYouTuberは増えており、なかには全国を飛び回って本格的なロケを敢行する配信者も少なくない。稲川さんも2020年に公式チャンネル稲川淳二メモリアル『遺言』」を開設。98分におよぶ「ノンストップ怪談」のほか、代表的な番組「恐怖の現場」などを配信している。

「周囲の方に勧められてチャンネルを作りました。運営はスタッフさんに任せていますが、抵抗はあまりなかったですねぇ。元々、Twitterでも『つぶやき怪談』を数年に渡って続けてしますし。そもそも、怪談は好きな人が怖がりながら楽しむもの。だから、インターネットのような好きなモノを取捨選択できる媒体とは相性が良いと思いますよ。作り手側にも制限はありませんから、色んな人が色々なカタチで表現してくれれば良いんです」

◆作り手は呑まれないように注意

 その一方、YouTuberのなかには「心霊スポットの廃墟の中で数日暮らしてみた」といった過激な内容を作る配信者もいる。また、番組制作のプロではない人たちが心霊コンテンツを作るリスクについて、稲川さんは警鐘を鳴らす。

「『引き際』をわきまえて『呑まれないように』することが大切です。ロケをしているとたまにあるんですよ、異様な金属音や気配を感じることが。見えないから分かり辛いですけど、見えるモノよりもはるかに恐ろしい。この状況で無茶すると、下手したら命を取られますよ。廃墟探索や心霊スポット巡りの趣味にのめり込むあまり、精神的に良くない状況に陥ってしまった人も少なくないんですから」

 作り手と受けとる側の両者とも、怪談や心霊映像などを十二分に楽しむためにはプライベートの充実やポジティブな感情が欠かせないという。

「作るときや視聴するときは真剣でも、終われば楽しく、和やかに過ごしましょう。少しギャップを感じる方もいるかもしれませんが、怖い話には『遊び心』がとても重要です。私の怪談も怖い話だけでなく、切なくて悲しい気持ちになったり、どこか温もりを感じられるものもたくさんありますから。いくら好きでも、くれぐれものめり込みすぎないようにお願いしますね」

◆話の破片を組み合わせる。稲川怪談の真髄とは

 稲川さんは関西テレビで定期的に放送している「稲川淳二の怪談グランプリ」で審査委員長を務めるなど、若手の怪談師の育成にも注力している。

「怪談家の方はここ10年でかなり増えている印象です。後進が増えるのは嬉しいもんですよ、だから良いところをたっぷりと時間をかけて論評しているんです。欠点ばかりを指摘するのは簡単ですが、私は褒めてあげたいんです」

 2022年には30年連続公演を控える怪談の語り部は、どのようにして長年愛される話をまとめ上げているのだろうか。

「色々な人や土地で聞いた話の破片を組み合わせて、つなげていきます。化石や骨から実際の姿を想像して描く恐竜と同じですよ。話というのは事実を羅列するだけじゃ面白くないし、怖くもならない。でも少し置いておくと、まったく関係のない土地や場所から話の破片が見つかることがあるんです。『この話、あの話とつながるんじゃないか!?』と気づいたら、あとはそれを仕上げていく感じですね。この過程を私は心霊探訪と呼んでいます」

 稲川怪談の土壌は、これまでのタレント活動で出会った人や赴いた土地に深く関わっている。

「心霊ロケ以外でも全国津々浦々、行かせてもらいましたから……むしろ、そっちの方が多いかもしれませんね(笑)。当時、出会った人たちとは今も連絡を取り合っていますし、その時に聞いた話が今になって『つながる』ことも少なくありません。恐怖体験ばかりだけでなく、土地独特の風土やなんてことない思い出話が怪談に必要な破片なんてこともあります。良い怪談家や心霊コンテンツの作り手には『ものを知る』ことが大切なんだろうと思います」

<取材・文/藤冨啓之、撮影/長谷英史>

【藤冨啓之】
WEBコンテンツ制作会社「もっとグッド」代表取締役ライター集団「ライティングパートナーズ」の主宰も務める。オウンドメディアのコンサルティングのほか、ビジネス・社会分野のライターとしても活動

タレント・怪談家の稲川淳二さん


(出典 news.nicovideo.jp)

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