毒性の強い「鳥インフルエンザ」が猛威をふるう


■変異を重ねると、人から人へと次々と感染する危険性がある

今冬、西日本を中心に毒性の強い「鳥インフルエンザ」が猛威をふるっている。昨年12月23日には千葉県の養鶏場にも拡大し、発生は14県にまで及んだ。ニワトリの殺処分件数は、すでに450万羽を越え、過去最多を記録した。

この鳥インフルエンザニワトリだけではなく人にも感染し、海外では多くの死者を出している。しかも病原体のウイルスが変異を重ねると、人から人へと次々と感染する「新型インフルエンザ」のウイルスに変わり、私たちを苦しめる危険性が高い。ブタやイノシシなどの動物の間でしか流行しない「とんコレラ(ブタ熱、CSF)」のような家畜の伝染病とは大きく違う。

鳥インフルエンザは世界各国を襲って止まない新型コロナよりもずっと怖くて恐ろしい感染症なのである。

鳥インフルエンザは、家畜伝染病予防法に基づき発生した養鶏場のすべてのニワトリが殺処分の対象となる。炭酸ガスを使って窒息死させて土中に埋められる。周辺には消毒用の消石灰の粉が散布される。テレビニュース映像に映し出される真っ白になった養鶏場のあれだ。規模の大きな養鶏場だと、自衛隊が派遣される。近くの養鶏場のニワトリも処分されることがある。疾病が発生した養鶏場のニワトリの肉や卵は市場には流通しない。

殺処分は他の養鶏場へのウイルスの拡散を防ぐためだ。そのまま放っておいてもニワトリは死ぬが、ニワトリからニワトリへと感染していく過程で前述したように新型インフルエンザに変異する危険性がある。

■昨冬ヨーロッパで流行したウイルスをカモが日本に運んできた

今冬は昨年11月5日香川県三豊市の養鶏場で初めて確認された。その後、兵庫や福岡、岡山などでも発生し、今年1月2日には岐阜県美濃加茂市の養鶏場でも見つかった。同日時点で感染は計14県の33養鶏場に広がっている。

確認されているウイルスタイプは高病原性の「H5N8亜型」だ。昨年10月には北海道や韓国で野鳥のフンから検出されていた。検出されたウイルスの遺伝子を解析したところ、昨冬にヨーロッパで流行したウイルスとかなり近いものだった。ヨーロッパで流行したこのウイルスに感染したカモなどの渡り鳥が、シベリアを経由して昨年秋に日本に飛来し、ウイルスを持ち込んだとみられている。

カモは鳥インフルエンザの宿主で、ニワトリと違って感染しても弱ったり死んだりしない。カモはネギだけではなく、鳥インフルエンザウイルスもしょってくる。

■エボラ出血熱との症状の類似から「鳥エボラ」とも呼ばれる

強毒の鳥インフルエンザウイルスに感染したニワトリは全身でウイルスが増える。とくに体温の高い腸管でよく増殖するため、フンにウイルスが多く含まれている。

ニワトリは内臓など至る所から出血して眠るように死んでいく。死んだニワトリのトサカや脚は内出血で黒く変色してしまう。ニワトリのこうした症状は歯茎や鼻、内臓から出血する、人のキラー感染症のエボラ出血熱とよく似ているため、「鳥エボラ」と呼ぶウイルス学者もいる。

鳥インフルエンザは日本では2004年に79年ぶりに確認されている。同年1月、強毒の鳥インフルエンザ山口県の養鶏場で突然発生してニワトリが大量死する。2月には大分県の民家でチャボが感染死した。

さらに京都府の養鶏場でもニワトリが大量に死んでいたことが発覚。この京都府ケースでは届け出の遅れが被害を拡大させ、経営者の会長夫婦が非難された揚げ句、自殺に追い込まれた。社長らも家畜伝染病予防法違反罪に問われた。

■死亡した3歳の男の子から鳥インフルエンザウイルスが

鳥インフルエンザはかつて人には感染しない養鶏場のニワトリの伝染病だと考えられていた。それが覆ったのは、1979年の香港での出来事がきっかけだった。インフルエンザの症状を起こして死亡した3歳の男の子から鳥インフルエンザウイルスが見つかり、鳥インフルエンザが人に感染することが初めて確認されたのである。

このとき見つかったウイルスが毒性の強い「H5N1」タイプで、香港政府は直ちに香港中のニワトリの殺処分を行い、H5N1の人への感染拡大を食い止め、WHO(世界保健機関)や各国の防疫当局から高く評価された。

厚生労働省によると、このH5N1は中国や東南アジアを中心に感染が広がり、2003年11月以降、世界で861人が感染し、うち455人が亡くなった。中国や香港などでは2013年3月以降、強毒の「H7N9」タイプ1568人が感染して615人が死亡している。鳥インフルエンザは世界各地で猛威をふるい続けているのである。

ちなみに現在、日本で感染が拡大しているH5N8タイプウイルスが人から人への感染したケースは、まだWHOに報告されていない。

■「世界で7400万人が感染死」と予測されている

鳥インフルエンザウイルスが変異し、新型インフルエンザがひとたび発生すると、人に免疫(抵抗力)がないために感染が拡大し、あっという間にパンデミック(地球規模の流行)を引き起こす。

WHO厚労省の予測によれば、新型インフルエンザウイルスの毒性が強いと、世界で7400万人が感染死し、日本国内では最悪64万人が命を落とす。新型コロナの世界の感染死者数は約184万人(今年1月3日時点)で、新型インフルエンザの予測値の40分の1に過ぎない。

新型インフルエンザは、1918年のスペインかぜ1957年アジアかぜ、1968年の香港かぜ、そして2009年4月と計4回発生している。ちなみにスペインかぜは日本でもかなり流行し、分かっているだけでも39万人余りが命を落とした。

新型インフルエンザの発生のサイクルは40年から10年といわれ、すでにその周期に入っている。警戒と備えが必要だ。新型コロナウイルス感染症にばかり気を取られていると、とんでもないことになる。

■読売社説は「鶏や卵の移動制限を迅速に行え」と訴える

鳥インフルエンザにどう対応すればいいのか。昨年12月24日付の読売新聞の社説は「鳥インフル感染 迅速な情報伝達が拡大を防ぐ」という見出しを付け、こう書き出す。

鳥インフルエンザの感染被害が、過去最大規模に拡大している。防疫態勢を強化し、ウイルスの封じ込めに万全を尽くさなければならない」
「被害はすでに、四国や九州、近畿などの12県、計約40カ所に及んでいる。国内で今季1例目が確認されてから、わずか1カ月半しかたっておらず、極めて深刻な事態である」

「極めて深刻な事態」に対し、読売社説はどう感染を防ごうというのか。

「これ以上被害を広げないよう、感染が確認された地域の自治体は殺処分に加え、鶏や卵の移動制限を迅速に行うことが不可欠だ」

新型コロナ対策もそうだが、防疫の基本は移動の制限である。

■「鶏や卵を食べた人への感染事例はない」

読売社説は主張する。

「鶏肉・鶏卵農家は、鶏舎内では専用の長靴に履き替え、防護ネットに破れがないかを定期的に点検するなど、改めて防疫の基本を徹底してほしい。鶏舎のこまめな消毒も心がけてもらいたい」
自治体や各農家は、メーリングリストなどを活用し、できるだけ早く感染情報を伝える態勢を整えるべきだ。地域で防疫対策会議を開くなど、情報共有の場を設けることも大切だろう」

防疫には日ごろの対策を徹底することや、感染情報の共有も重要である。

読売社説は最後に「鶏や卵を食べた人への感染事例はない。風評被害を生まないよう、政府や自治体は正確な情報発信に努めてほしい」とも訴える。鳥インフルエンザの正しい知識を学ぶことも防疫の基本だ。

■東京社説は「対策はやはり、基本の徹底しかない」と主張する

12月5日付の東京新聞の社説は冒頭部分でこう指摘する。

新型コロナウイルスや豚熱(CSF)の収束も見通せぬ中、基本対策の徹底しかすべはない」

感染対策はやはり基本を忠実に実行することこそ、効果がある。

東京社説はこうも指摘する。

「鳥から人への感染が繰り返されることで、人から人に感染する新型に変異することも危惧されている」

鳥インフルエンザ新型インフルエンザへの変異だ。残念なことにこの変異について読売社説はまったく触れていなかった。ただ、もう少し突っ込んだ指摘と主張がほしかった。

東京社説は新型コロナ、とんコレラ、それに鳥インフルエンザを「トリプルパンチ」とみなし、「感染症のトリプルパンチにさらされているわけだが、対策はやはり、基本の徹底しかない」と訴えている。その通りだ。

高病原性とみられる鳥インフルエンザが発生した香川県三豊市の養鶏場で殺処分を行う県職員ら=2020年12月2日[同県提供] - 写真=時事通信フォト


(出典 news.nicovideo.jp)

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